聖杯戦士☆マジカルリンリン10 その1

 ――前回までのあらすじ――

 魔術師遠坂凜は聖杯戦士マジカルリンリンである。
 冬木の地を守り、悪の組織アンリ=マユを滅ぼすため仲間たちと共に戦っている。
 聖杯の器を受け取るために、アインツベルンの城へ向かった聖杯戦士たち。
 少女たちの前にはバーサーカーが、衛宮士郎の前にはアーチャーが試練として立ち塞がった!

 ――あらすじ終わり――


  - interlude -

 世界が、書き換えられる。
 本来の世界から、アーチャーが創り出す世界へ。

 固有結界(リアリティ・マーブル)。
 あまり魔術について詳しくない俺でも知っている、魔法にもっとも近いと言われる魔術。
 世界の一部を、自分の心の中の世界で塗り潰すチカラ。

 何もない『エミヤシロウ』がただ一つだけ持つ、自分だけの力。

「……無限の剣製、アンリミテッドブレイドワークス」
 世界が変わると同時に流れ込んで来たその名を、俺はぼそりと呟いた。この世界の主は、乾いた風に髪を乱されながらにやりと笑ってみせる。
「そう。衛宮士郎の心象世界を具現化する魔術――これだけが、生まれながらに衛宮士郎が持つもの」
 その手がす、と伸ばされる。そこには、今までなかったはずの剣が1本、最初からあったかのように突き立っていた。アーチャーの手は、当然と言わんばかりにその柄を掴む。
「だが、これもまた贋作。ここにある全ての剣は、このオレが今までにこの目で見たことがある刀剣の写し」
 剣を引き抜いて構える。俺もまた、あいつと同じ剣を作り出して構えた。身体はあいつより小さいし、髪の色も肌の色も目の色も違うけれど、俺たちの構えは鏡に映したようにまったく同じ。だって、この構えは今手に持っている剣が教えてくれた、こいつを使うのに一番いい構えだから。
「ああ、そうだな。ここにあるのは全部偽物だ」
 奴の言葉を否定はしない。だけど。
「だけど、例え俺自身すら偽物だったとしても――」
 手の中の剣をぐっと握り締める。お前も偽物だけど、俺に使え、振るえと言ってくれる。
 ああ、使おう。振るおう。俺の目の前に立つ、最大の試練を乗り越えるために。
 そして。

「俺のこの思いだけは、本物だから」

 それを、あいつに見せつけるために。

  - interlude out -


  聖杯戦士☆マジカルリンリン ―新たなる力! キシュア=ゼルレッチの秘宝!―


 ――気が付くと、何か真っ暗なところにいた。
 ううむ、わたしはあんなんで死んでしまったのであろうか、いや情けない。
「こりゃ、勝手に死ぬでない。ワシの系譜の分際で」
 ぽこっと頭を殴られた。と同時にぱぁっと周囲が明るくなる……って、今度は真っ白かい。芸のない。
「悪かったのぅ、芸がなくて」
 また殴られた。おのれ、わたしの頭を気安くぽかぽか殴るとは一体どこのどちらさんでしょうかっ!? つーか痛い痛い、叩いてる部分が金属じゃないのがまだ救いかも。
「ワシじゃ、ワシ」
「――へ?」
 くるりと振り返り、その当人の顔を見た瞬間、わたしはぽかーんとしてしまった。ああいけない、人前でこんなにでっかく口を開くもんじゃない。
「え、う、うそ、大師父ー!?」
「うむ、ワシじゃ。今代の遠坂の当主はめんこいおなごで良かったわい」
 目の前にいる髭をたっぷり蓄え、ずるずるべったんなローブを纏った見るからに魔法使いな爺さんは、そう言って手に持ったステッキだか剣だかよく分からないものをぶらぶらさせつつ、にやりとお笑いになりました。って、あんたどこの訛りでしゃべってんのよ、まったく。それにしても……我が遠坂家を魔術の世界に引きずり込んだ張本人、そのものズバリの魔法使い・魔道元帥キシュア=ゼルレッチ=シュバインオーグがいるなんて、ここはどこなんでしょーか。
「とりあえず、可愛いと褒めて貰ったのはありがとうございます。で大師父、ここどこですか?」
「何じゃ、せっかちな嬢ちゃんじゃのぅ。ま、良いわ」
 かんらかんらと笑ってみせて、それからこの爺さんはえっへんと胸を張った。おーい、第二魔法の使い手がこんなガキっぽいおじいちゃんでええんかい。
「ぶっちゃけここは、お前さんの夢の中じゃ。古~い友人の知り合いの夢魔に手伝ってもうてワシは顔を出しておる」
「あー、わたしの夢の中……あのねー大師父、いくらあなたでもレディの夢の中に潜り込むなんてやらしーですよ?」
「そりゃワシもそう思ったんじゃがな、緊急事態故まぁ許せ」
 いかん、年季が違いすぎる。どう言っても柳に風、さらっと流されてしまいそうだ。……それよりも、緊急事態って何だったっけ。
「――あ、そうだ。アインツベルン……」
 夢の中だと、どうもボケが先行してしまうのは何故だろう。わたしはたった今まで、聖杯の器を手に入れる為の試練だって門番のバーサーカーと戦っていたんじゃないか。士郎は別の場所で別の試練を受けていて、双方がちゃんとクリアーしないと器は手に入らない。駄目じゃないか、忘れちゃ。
「思い出したかな?」
「あーもー、すっきりと思い出しました……」
 ええい、にやにや笑って人の顔を覗き込むな爺さん。そうよ、あんたの系譜たる遠坂はここ一番のうっかり属性なんてもんを持ってる問題児よ、開き直ってやるんだからちくしょー。
「で、思い出したんだからとっとと話を進めちゃってください。わたしグースカ寝てる場合じゃないんです」
「いやまったく。ではさくさくと進めようぞ……お前さんたち、こっそりズルしておるの」
 はい?
 いきなり何てこと抜かすんだ、じじぃ。いやんエレガントじゃない。
「まぁ、気づいてないのはトオサカのうっかり属性と言うことで、それはもう過ぎたことなので構わぬよ。後からフォローは利くじゃろうし」
「何がズルなんですか、大師父?」
「まだ分からんのかい。まぁいい」
 魔道元帥は自分のペースで話を進めていく。こら、少しくらい質問に答えんかい!
「そこらへんは試練をクリアーすりゃ聖杯から説明があろ。で、その試練に勝つには今のお前さんたちじゃ、ちょみっと力量不足じゃと言うておこう」
 うぅ、言われてしまった。そうよね、5人掛かりでろくにダメージも与えられなかったし。ここは素直に認めてしまおう。あー情けない。
「……かもしれません。ライダーのベルレフォーンでもどうにか相打ちに持ち込めた、かな? って感じだったし……」
「あのバーサーカーが門番では、しょうがあるまい。でまぁ、弟子が困っておるのをのんびり眺めてもおられん状況なんでな、爺がしゃしゃり出てきたわけじゃ」
 ……ほほぅ。すると、ちょっぴり期待してもいいのでしょーか? ほら、1年単位のTV番組だと半年くらいでやってくれる、お約束の。あれはスポンサーの意向もあるんだろうけど、わたしにはスポンサーはいません。遠坂の魔術は金が掛かるんだから求むスポンサー。金だけ出して口出すな。この条件じゃ無理か。
「つまり、ここでお約束のパワーアップでもしてくれるって?」
「うむ、やはり遠坂の当主じゃの。話が早い」
 おおぅ本気と書いてマジですかー大師父! って何だかわたし、テンションめちゃくちゃ高いし。さっきまで戦闘してたから、まだハイになったまま落ち着いてないのね、多分。
「いやー、さすがは正義の味方やらんかーと誘った時、それは是非にと二つ返事で引き受けてくれた永人の直系だけのことはある」
「うちの先祖、そんな勧誘で教会から協会にくら替えしたんですか……」
 『永人』ってのは、わたしのご先祖様。それまでは聖堂教会寄りだったうちの家系が、そこから魔術師にくら替えしたターニングポイントに当たる人。わたしこと遠坂凜は、そこから数えて6代目になる、のだが……そーか、今わたしが猫耳猫尻尾でバトルやる羽目になってるのはそのご先祖様のせいだったか。ちょっぴり恨むけど、士郎と知り合えたから許してあげよう。うん。
「ま、それはそれとして。パワーアップの話じゃったな」
「あ、そうですそうです。で、どう言ったタイプのパワーアップなんでしょうか」
 例えば新しい武器、例えば2段変身。あるいは新しい仲間、ってパターンもある。そのどれなんだろうか?
「ここはまあ、順当に新しい武器と言ったところじゃな。ほれ、これがそうじゃ」
 大師父がひょいと見せてくれたのは、さっきわたしの頭をどついた剣だかステッキだか分からないもの。見た目は短剣っぽいんだけど、その刃に当たる部分が刃っぽくなくて、きらきら光る宝石か貴石っぽい。それから、鍔は丸っこくて可愛らしい翼の形をしている。だからステッキに見えたんだろうな、きっと。
「これ、ですか?」
「うむ。これはワシの宝石剣……のレッサータイプでの、その名もマジカルステッキ☆ゼルレッチじゃ」
 ……夢の中でヘッドスライディングなんて、滅多にない体験だなぁ。顔面が痛くないのも、夢だからこそだろう。それと、わたしの名乗りでもそうなんだけど、その名称内にある☆は何なのよ、☆は。
「つーかステッキなんですか、それ」
「変身ヒロインが持つんじゃからステッキに決まっておろうが」
「そーゆーもんなんですか」
 ……そーゆーもんだ、と真面目な顔で力説してくれる大師父に、さすがに反論する気もなくなってしまった。きっと、いつもわたしが振り回しているアゾット剣もステッキ扱いなんだろうな、爺。
「まーそれはそれとして。時間が惜しいんですからとっととそれください、大師父」
「誰がこれをそのままやるっちゅーたか。ワシはこれ見せるだけじゃ、後はそっちで作らんかい」
「できるかー!」
 しれっとおっしゃる大師父に、わたしは自分が熱を出したような気がした。あー頭痛い……あのねー、見せられるだけで作れるなんて便利なこと、わたしにはできないんですけどー………………って、へ?
「大師父。つまり、士郎にこれを見せて投影させろ、とそういうことですか?」
 そう、わたしができなきゃ、できる奴にやらせればいい。とっさに思いついたわたしの考え方は間違っていないんだろうけど、念のため確認してみた。あ、爺さんってば大きく頷いてやんの。ビンゴかい。ええいその満足げな笑みはやめんか。
「そういうことじゃ。うむ、物分かりの良い弟子は助かる」
「それはどうも」
 お褒めに預かり恐悦至極。それはともかく、だ。士郎の投影能力ってのは、一度見たことのあるものの構造やら歴史やらを解析し、それを現実に『投影』する能力。つまり、見たことがなければできないわけで。
「とりあえず、士郎にこれ見せないと投影はできませんよ?」
「そーじゃったの。ま、見本兼お試しサービスとして、これを持って行くがいい。1回だけの出血大サービスじゃぞ」
 それならそうと、最初から言ってください。ともかく、わたしは目の前にずいと出されたマジカルステッキを自分の手に受けた。宝石剣――平行世界の魔力を汲み出すことのできる、第二魔法の使い手たるキシュア=ゼルレッチ=シュバインオーグの秘宝。レッサーバージョンとはいえ、その神秘が今わたしの手の中にあることに、全身が震える。
「ああ、そうじゃ。ひとつ言うておかねばならん注意事項がある」
 爺さんはそう言って、人差し指を立てた。まぁ、性急なパワーアップにはそれ相応のリスクが伴うのもお約束、しょうがないか。
「何ですか?」
「これを投影できるのは……そうじゃな、せいぜい3回といったところじゃろう。それ以上はあの坊主の身が保たぬ」
「士郎の……身が保たない?」
 なんでさ、とは士郎の口癖。それを口にしたくなっちゃう辺り伝染ってるかな、ひょっとして。
「疑問かね? 坊主の投影能力を知っておるのだろう、少し考えれば分かることじゃ」
 その疑問に対して、大師父は答えを教えてくれなかった。はいはい、宝石剣のヒントをくれたんだからそれくらい、自分で考えます。ともかく、3回ね。
「さて、そろそろ時間じゃの。ワシャこれで帰ることにしようかの」
「帰るってどこへですか。たまには時計塔にも顔出した方がいいんじゃないですか?」
「だっておもしろくないからのぅ」
「大師父が顔見せただけでおもしろくなりますよ、きっと」
 そうかのー、とあごひげ撫でつつ首を傾げる爺さん。この爺さんが世界に5人しかいない魔法使いの一人、なんだよなぁ。ついでに吸血種で、800年とか1000年とか生きてて。
 はぁ、世界はわけ分からんなぁ。
「遠坂の当主よ。冬木の……いや、世界の命運はお前さんたちの両肩に掛かっておる。ぼちぼち頑張るがよい」
「ぼちぼちって……もう少し言いようがあるでしょう、大師父」
 わたしは呆れてしまった。まぁ、これが大師父の人となりなんだけど。がっはっはと笑いながら大師父がわたしの肩を叩くと、ぐんと意識が遠ざかる。ああそうだ、これはわたしの夢なんだ。目を覚まさなくちゃ――みんなが、士郎が待っている。
「それじゃ、お世話になりました」
 小さくなっていく大魔法使いを見つめてぺこり、と頭を下げ、わたしは目を閉じた。

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