聖杯戦士☆マジカルリンリン3 その4
「セイバー!?」
士郎が落ちた、と思った次の瞬間、下から飛び上がってきた彼女にちょっと驚いた。士郎をお姫様抱っこして飛び込んできたその姿は、まるで捕らわれの姫君を救出した白馬の王子様って感じ……あ、士郎ごめん。しかしハマリ過ぎなのは問題だわ。
「我が名はセイバー……聖杯戦士マジカルセイバー! 邪悪を斬るべく、今ここに見参!」
ああ、セイバーの名乗りってそんなのだったんだ。だけど、士郎を抱いたままってのがいまいち決まらないわよねぇ。
「――っ! それはわたしに対する嫌みですか、聖杯戦士!」
「何がですか?」
あれ……何だろう。顔が半分見えないんだけど、ライダーが怒ってるみたい。ダガーを握りしめた手がぷるぷる震えていて、その視線は……恐らく、セイバーに向けられているのだろう。
「わたしが身体が大きいから! 男の人をお姫様抱っこしてしまうくらい大きいからそんなことをするんですか! それは嫌がらせです!」
「な! そんな、勝手に妄想しないで下さい! そもそも、シロウを屋上から落としたのはあなたですね? それが原因でしょうが!」
「妄想でも何でもないでしょう、これ見よがしに! わたしだって、わたしだって自分より大柄ながっちりした男性にお姫様抱っこしてもらうって夢くらい持ってるんですから!」
――あー、そういうこと。そうよね、アーチャーみたいに長身の相手じゃないと、ライダーをお姫様抱っこなんてことはまずできないか。……って、彼女、身体が大きいの、コンプレックスになったりしてる?
「あ、えーっと……セイバー、とにかく降ろしてくれないか?」
「あ、は、はい。失礼致しました、シロウ」
ぽんぽんとセイバーの肩を叩いて、士郎が済まなさそうにお願いした。こらそこ、何赤くなってる! 人前でベタベタしてんじゃないわよ、早く士郎を降ろして戦線に加わりなさい! ってだからわたし、何を怒ってるんだ~~~!
「遅くなりました、リンリン、セイバー……わたしはキャスター、聖杯戦士マジカルキャスター。平和のために、ここに参りました」
あ、後ろの階段からキャスターも駆け上がってきた。ひょっとして、彼女が空間転移魔術を使って来てくれたのかな? でも、外と中は結界で仕切られているし……ま、いっか。何か抜け道とかがあったんだろう。
「おいおいお前ら、よってたかって僕を無視するんじゃないよ! 自分たちの立場、分かっててやってんのか!?」
ごめんなさい間桐くん、あなたのことすっかり忘れてたわ。というか、そのカッコがあまりにもダサくって意図的に意識の外に追い出していたみたい。ほら、その証拠に、セイバーが目を丸くしてあきれ顔で見てるじゃない。キャスターは彼を知っているのかしら?
「……えーっと……」
「……マスター・シンジ。それはダサいからと、わたしはコスチュームの変更を提案したはずですが」
「うるさい、裏切り者が! 大体、お前の提案した衣装はどっかのロックバンドとかヴィジュアル系で、ゴテゴテしすぎてるんだよ!」
やっぱり知り合いか。しかし、慎二のファッションセンスもあれだけど、キャスターも別のベクトルに突き抜けてる? ひょっとして。
と、やっとの事で怒りを抑えたらしいライダーが進み出てきた。じゃらり、と長い鎖が蛇みたいに伸びる。
「コマンダー・キャスター。裏切り者は処刑します。良いですね、マスター」
「ああ、好きにすればいいさ。僕は遠坂さえ手に入ればいいからね――やってしまえ、ライダー!」
自分は高みの見物らしい慎二にそう命じられ、ライダーはとんと床を蹴った。攻撃目標は――前にいて、戦闘力としては弱い、士郎!
「下がって、シロウ!」
素早くセイバーが前に出る。見えない剣を構え、振り下ろされたライダーのダガーをきれいに受け止めた。あー、ここからじゃわたしは援護できないわ。わたしの魔術、命中率がいまいちなのよねぇ。セイバーに当たっても弾き返されるだけだけど、それじゃ援護とは言えない。
「援護はわたしが行います、リンリン!」
キャスターがそう声を掛けてわたしの隣に並んだ。すっと右手を掲げ、口の中で一言呟くと共に魔力が光の弾丸として形成される。ところでさキャスター、リンリンなんて呼ばれたらわたし昔のパンダみたいよ?
「――!」
ライダーを狙って撃ち出された光は、黒い影にぶつかってあらぬ方向へと弾け飛んだ。く、慎二の奴、しっかり量産型雑魚を呼び出してくれちゃって。でも、こっちには好都合。鬱憤晴らさせて貰うわよ。
「遠坂をなめんじゃないわよ!!」
「――、っ、――!」
わたしとキャスターが黒い影相手に奮闘している間に、士郎とセイバーはライダーと2対1の戦いに入っていた。二人とも接近戦タイプだから、とにかく近距離でつばぜり合いって形になっている。
「たぁあっ!」
士郎が双剣を振り回す。それを避けたライダーを、上からセイバーの剣が襲う。うん、いいコンビネーションだ。
「実力は認めますが、いかんせん力不足! わたしの敵ではない!」
「うわっ!」
じゃらりと金属音を立て、弧を描いて舞い降りてきた長い鎖が……あ、士郎を絡め取った! ちょっとこら、人の弟子に何するのよ!
「おおおおお――っ!」
両足を大きく開いて踏ん張り、士郎を絡めたままの鎖を思い切り振り回すライダー。凄い怪力って、うちの弟子は鎖鎌の分銅かー!
「させませんっ!」
セイバーが見えない剣を構える。そのまま突進し、ライダーの振り回している鎖を断つつもり……って、士郎はどうする気よ? あの勢いで飛ばされちゃ、わたしやキャスターではとても受け止められない!
「リンリン、影を一瞬で構いません、吹き飛ばして下さい」
「……キャスター、いける?」
「お任せを」
キャスターの意図は読めた。だからわたしは、ポケットから宝石を一個取り出した。吹き飛ばすだけなら問題はない、方向性のない魔力を暴れさせればいいだけ。
「Ein KOrper ist ein KOrper―――!」
宝石を床に叩きつけ、思い切り魔力を暴走させる。もっとも、石自体に溜め込まれた魔力がそんなに多くないからあまり周囲に被害は出ないけど……よし、影の密集が途切れた。と同時に、セイバーがライダーの鎖を断ちきるのが見えた。放り出された士郎が、こちらに飛んでくる!
「――!」
キャスターが呪文を短く唱えた。柔らかな光が士郎を包み込み、速度を遅くする。しょうがない、わたしが受け止めてあげるわよ……わ、足がもつれたうぶっ!?
「……と、とおさか、大丈夫……か?」
「とりあえず、どきなさいよ……重いんだから」
うん、これもまたお約束。わたしは床にばったり倒れ、落ちてきた士郎のクッションになってしまった。普通は逆でしょ、普通は。っていうか、鎖の重さもあるからとても重いのよ、早くどけっての。
「ご、ごめん」
やっと士郎がどいてくれた。わたしも起き上がって、埃を払う……こら士郎、スカートの中は絶対領域よ。覗くんじゃありません。
「ともかく、大丈夫?」
「うー、乗り物酔いみたいで気持ち悪……」
鎖をほどいてやりながら尋ねると、思ったより平気そうな返事が返ってきた。うん、この調子なら大丈夫か、と視線をセイバーたちの方に戻すと、二人の斬り合いの光景がぱっと目に入った。
――凄い。
これが、本当の戦いなんだ。
セイバーが横に切り払い、ライダーが身を引いてかわした次の瞬間踏み込む。それをセイバーは腕甲で下から跳ね上げることでよけ、さらに自分も踏み込んで突き刺すように刃を振るう。言葉もなく、ただ二人の息遣いと得物同士がぶつかり合うかん高い音だけが響く。
「……凄い、な」
士郎もわたしと同じ感想を持ってるみたい。二人してバカみたいに、その光景に見とれていた。と、わたしの耳に飛び込んできたのは遠くからぼさっと戦いを見ていた、慎二の言葉。
「こら、ウスノロ! 何遊んでるんだよ、さっさと倒しちまえ! そんなだからお前は!」
自分は安全圏から高みの見物の癖に。ふざけるな、とそちらに左腕を構えたわたしを、キャスターの言葉が引き留めた。
「リンリン、士郎、二人を止めねばなりません。ライダーは、わたしと同じなんです!」
「何ですって!?」
その言葉に、わたしたちは意識を引き戻される。
キャスターと同じ、ということはつまり――ライダーも、わたしたちの仲間だということ。ならば、呪いを解けばこの戦いと、今この学園を包み込んでいる結界の効果は多分、終わる。
「分かった。遠坂、キャスター、援護を頼む。俺が行く」
士郎が進み出た。確かに、セイバーとライダーが全力で戦っているこの状況ではキャスターを飛び込ませるわけにはいかない。自分で剣を振るえる士郎の方がまだマシだろう。
「分かったわ。ヘマすんじゃないわよ、いいわね?」
悪態を付きつつ、士郎に防御魔術をかけてやる。「ありがとう」って答えた彼の笑顔がちょっと眩しくて、わたしは思わず視線を逸らした。
「では参ります。――!」
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
「いっけぇぇぇ!」
キャスターの魔術とわたしのガンドが、一斉にライダーを目がけて解き放たれた。セイバーにはキャスターの魔術ですら効かないから、うっかり外しても問題は無い――そのセイバーもこちらの意図に気づいたのか、ライダーを蹴り飛ばして彼女との距離を開く。
「投影、開始」
士郎の呟きと共に、その手にくねくね曲がった刃を持つ短剣が投影される。本来はキャスターの持ち物であり、彼女自身にかけられた呪いを解き放ったルールブレイカー。士郎はそれを右手に構え、ライダーの身体に突き立てようとする。……眼帯に隠されていない彼女の口元が、忌々しげに歪んだように見えた。
「無謀な!」
どすっ、と鈍い音がした。士郎の左の脇腹に、ライダーが繰り出したダガーの先端が深々と刺さっている。そこから、赤い血がぶわっと沸き出した。一瞬空いて、あいつは口からも同じ色を吐き出す。
「士郎!」
「シロウっ!」
キャスターとセイバーが、彼の名を叫ぶ。わたしはそれさえもできずに、ただぼうっと赤い色がコンクリートの床に模様を作っているのを見つめていた。
わたし、何してるんだろう。
何で見てるだけなんだろう。
動かなきゃ。
あいつを助けなきゃ。
何で、動けないの――?
「………………ルールブレイカー」
その声と共に、士郎とライダーが光に包まれた。
光は空間を浄化し、空気の赤を消し去っていく。その光は、長身を仰け反らせたライダーの身体から逃げ出すように滲み出てきた黒い影をも溶かす。首輪がばきんと音を立てて外れ、長過ぎる髪が下からの風を受けたかのように乱れる。その髪の中から、同じ色の猫耳がぴこん、と姿を見せた。ばさばさと暴れる髪をかき分けて、そのお尻からも同じ色の猫尻尾がひょこん。
「うう……あああ――――っ!」
彼女が一声吼えた。一瞬身体を縮込ませ、バネのように床を蹴ってひとっ飛び。給水塔の上で呆然としっぱなしの慎二目がけて――行ったぁ、鉄拳制裁!
「ぐわああっ! こ、この、覚えてろよ!!」
小悪党特有の捨てぜりふを吐き出して、慎二はぽーんと飛ばされていった。取り戻された青空の果てまで飛んで行って、消え去った後にキラリと光。まぁ、死にはしないだろうと……思う。うん、きっとあいつは平気。それよりも、士郎だ!
「士郎っ!」
お間抜けな慎二のおかげか、何とか動けるようになったわたしは、慌てて床に倒れ込んだ士郎の元へと駆け寄った。セイバーに身体をもたれかけ、キャスターが見守って……あれ、傷は?
「……遠坂……うん、大丈夫みたいだ」
少し苦しそうだったけど、士郎は無事だった。それに、ライダーに刺されたはずの脇腹の傷もほとんど塞がっている。これは、キャスターの魔術なの?
「いえ、わたしではありません。士郎の身体が、自ら修復したのです」
んなアホな。そんな便利な身体なんてあるわけが……って、目の前にいるのか。まったく、アンタ何者?
「…………」
そして、もう一人「何者?」な相手がわたしたちのそばに立った。先ほどの恐慌状態からは脱しており、ちょっと恥ずかしげにもじもじしてるのが可愛い。
「――あんたも、聖杯戦士だったんだ」
彼女……ライダーを見上げ、わたしはそう言った。ライダーは小さく頷いて跪く。
「聖杯戦士マジカルライダー、ここに参上いたしました。これまでの非礼、何と詫びたらよいか」
「良いわよ。少なくとも鮮血神殿とやらは解除されたみたいだし」
そう、そもそもはその厄介な結界を消すためにわたしたちは戦ってたんだ。えらく時間がかかったような気がしたんだけど、間に合ったかな?
「大丈夫です。基点近くにいた者の中には、表皮へのダメージが著しい者もいるかも知れませんが、この展開時間であれば生命に別条はないはずです」
「そっかぁ、なら、よかった」
わたしは一安心して、それから通信機を手に取った。さすがにこれだけ派手なことをやらかした訳だし、証拠隠滅を図ることにしよう。あいつに連絡取るの、あまり気が進まないんだけどな。
士郎が落ちた、と思った次の瞬間、下から飛び上がってきた彼女にちょっと驚いた。士郎をお姫様抱っこして飛び込んできたその姿は、まるで捕らわれの姫君を救出した白馬の王子様って感じ……あ、士郎ごめん。しかしハマリ過ぎなのは問題だわ。
「我が名はセイバー……聖杯戦士マジカルセイバー! 邪悪を斬るべく、今ここに見参!」
ああ、セイバーの名乗りってそんなのだったんだ。だけど、士郎を抱いたままってのがいまいち決まらないわよねぇ。
「――っ! それはわたしに対する嫌みですか、聖杯戦士!」
「何がですか?」
あれ……何だろう。顔が半分見えないんだけど、ライダーが怒ってるみたい。ダガーを握りしめた手がぷるぷる震えていて、その視線は……恐らく、セイバーに向けられているのだろう。
「わたしが身体が大きいから! 男の人をお姫様抱っこしてしまうくらい大きいからそんなことをするんですか! それは嫌がらせです!」
「な! そんな、勝手に妄想しないで下さい! そもそも、シロウを屋上から落としたのはあなたですね? それが原因でしょうが!」
「妄想でも何でもないでしょう、これ見よがしに! わたしだって、わたしだって自分より大柄ながっちりした男性にお姫様抱っこしてもらうって夢くらい持ってるんですから!」
――あー、そういうこと。そうよね、アーチャーみたいに長身の相手じゃないと、ライダーをお姫様抱っこなんてことはまずできないか。……って、彼女、身体が大きいの、コンプレックスになったりしてる?
「あ、えーっと……セイバー、とにかく降ろしてくれないか?」
「あ、は、はい。失礼致しました、シロウ」
ぽんぽんとセイバーの肩を叩いて、士郎が済まなさそうにお願いした。こらそこ、何赤くなってる! 人前でベタベタしてんじゃないわよ、早く士郎を降ろして戦線に加わりなさい! ってだからわたし、何を怒ってるんだ~~~!
「遅くなりました、リンリン、セイバー……わたしはキャスター、聖杯戦士マジカルキャスター。平和のために、ここに参りました」
あ、後ろの階段からキャスターも駆け上がってきた。ひょっとして、彼女が空間転移魔術を使って来てくれたのかな? でも、外と中は結界で仕切られているし……ま、いっか。何か抜け道とかがあったんだろう。
「おいおいお前ら、よってたかって僕を無視するんじゃないよ! 自分たちの立場、分かっててやってんのか!?」
ごめんなさい間桐くん、あなたのことすっかり忘れてたわ。というか、そのカッコがあまりにもダサくって意図的に意識の外に追い出していたみたい。ほら、その証拠に、セイバーが目を丸くしてあきれ顔で見てるじゃない。キャスターは彼を知っているのかしら?
「……えーっと……」
「……マスター・シンジ。それはダサいからと、わたしはコスチュームの変更を提案したはずですが」
「うるさい、裏切り者が! 大体、お前の提案した衣装はどっかのロックバンドとかヴィジュアル系で、ゴテゴテしすぎてるんだよ!」
やっぱり知り合いか。しかし、慎二のファッションセンスもあれだけど、キャスターも別のベクトルに突き抜けてる? ひょっとして。
と、やっとの事で怒りを抑えたらしいライダーが進み出てきた。じゃらり、と長い鎖が蛇みたいに伸びる。
「コマンダー・キャスター。裏切り者は処刑します。良いですね、マスター」
「ああ、好きにすればいいさ。僕は遠坂さえ手に入ればいいからね――やってしまえ、ライダー!」
自分は高みの見物らしい慎二にそう命じられ、ライダーはとんと床を蹴った。攻撃目標は――前にいて、戦闘力としては弱い、士郎!
「下がって、シロウ!」
素早くセイバーが前に出る。見えない剣を構え、振り下ろされたライダーのダガーをきれいに受け止めた。あー、ここからじゃわたしは援護できないわ。わたしの魔術、命中率がいまいちなのよねぇ。セイバーに当たっても弾き返されるだけだけど、それじゃ援護とは言えない。
「援護はわたしが行います、リンリン!」
キャスターがそう声を掛けてわたしの隣に並んだ。すっと右手を掲げ、口の中で一言呟くと共に魔力が光の弾丸として形成される。ところでさキャスター、リンリンなんて呼ばれたらわたし昔のパンダみたいよ?
「――!」
ライダーを狙って撃ち出された光は、黒い影にぶつかってあらぬ方向へと弾け飛んだ。く、慎二の奴、しっかり量産型雑魚を呼び出してくれちゃって。でも、こっちには好都合。鬱憤晴らさせて貰うわよ。
「遠坂をなめんじゃないわよ!!」
「――、っ、――!」
わたしとキャスターが黒い影相手に奮闘している間に、士郎とセイバーはライダーと2対1の戦いに入っていた。二人とも接近戦タイプだから、とにかく近距離でつばぜり合いって形になっている。
「たぁあっ!」
士郎が双剣を振り回す。それを避けたライダーを、上からセイバーの剣が襲う。うん、いいコンビネーションだ。
「実力は認めますが、いかんせん力不足! わたしの敵ではない!」
「うわっ!」
じゃらりと金属音を立て、弧を描いて舞い降りてきた長い鎖が……あ、士郎を絡め取った! ちょっとこら、人の弟子に何するのよ!
「おおおおお――っ!」
両足を大きく開いて踏ん張り、士郎を絡めたままの鎖を思い切り振り回すライダー。凄い怪力って、うちの弟子は鎖鎌の分銅かー!
「させませんっ!」
セイバーが見えない剣を構える。そのまま突進し、ライダーの振り回している鎖を断つつもり……って、士郎はどうする気よ? あの勢いで飛ばされちゃ、わたしやキャスターではとても受け止められない!
「リンリン、影を一瞬で構いません、吹き飛ばして下さい」
「……キャスター、いける?」
「お任せを」
キャスターの意図は読めた。だからわたしは、ポケットから宝石を一個取り出した。吹き飛ばすだけなら問題はない、方向性のない魔力を暴れさせればいいだけ。
「Ein KOrper ist ein KOrper―――!」
宝石を床に叩きつけ、思い切り魔力を暴走させる。もっとも、石自体に溜め込まれた魔力がそんなに多くないからあまり周囲に被害は出ないけど……よし、影の密集が途切れた。と同時に、セイバーがライダーの鎖を断ちきるのが見えた。放り出された士郎が、こちらに飛んでくる!
「――!」
キャスターが呪文を短く唱えた。柔らかな光が士郎を包み込み、速度を遅くする。しょうがない、わたしが受け止めてあげるわよ……わ、足がもつれたうぶっ!?
「……と、とおさか、大丈夫……か?」
「とりあえず、どきなさいよ……重いんだから」
うん、これもまたお約束。わたしは床にばったり倒れ、落ちてきた士郎のクッションになってしまった。普通は逆でしょ、普通は。っていうか、鎖の重さもあるからとても重いのよ、早くどけっての。
「ご、ごめん」
やっと士郎がどいてくれた。わたしも起き上がって、埃を払う……こら士郎、スカートの中は絶対領域よ。覗くんじゃありません。
「ともかく、大丈夫?」
「うー、乗り物酔いみたいで気持ち悪……」
鎖をほどいてやりながら尋ねると、思ったより平気そうな返事が返ってきた。うん、この調子なら大丈夫か、と視線をセイバーたちの方に戻すと、二人の斬り合いの光景がぱっと目に入った。
――凄い。
これが、本当の戦いなんだ。
セイバーが横に切り払い、ライダーが身を引いてかわした次の瞬間踏み込む。それをセイバーは腕甲で下から跳ね上げることでよけ、さらに自分も踏み込んで突き刺すように刃を振るう。言葉もなく、ただ二人の息遣いと得物同士がぶつかり合うかん高い音だけが響く。
「……凄い、な」
士郎もわたしと同じ感想を持ってるみたい。二人してバカみたいに、その光景に見とれていた。と、わたしの耳に飛び込んできたのは遠くからぼさっと戦いを見ていた、慎二の言葉。
「こら、ウスノロ! 何遊んでるんだよ、さっさと倒しちまえ! そんなだからお前は!」
自分は安全圏から高みの見物の癖に。ふざけるな、とそちらに左腕を構えたわたしを、キャスターの言葉が引き留めた。
「リンリン、士郎、二人を止めねばなりません。ライダーは、わたしと同じなんです!」
「何ですって!?」
その言葉に、わたしたちは意識を引き戻される。
キャスターと同じ、ということはつまり――ライダーも、わたしたちの仲間だということ。ならば、呪いを解けばこの戦いと、今この学園を包み込んでいる結界の効果は多分、終わる。
「分かった。遠坂、キャスター、援護を頼む。俺が行く」
士郎が進み出た。確かに、セイバーとライダーが全力で戦っているこの状況ではキャスターを飛び込ませるわけにはいかない。自分で剣を振るえる士郎の方がまだマシだろう。
「分かったわ。ヘマすんじゃないわよ、いいわね?」
悪態を付きつつ、士郎に防御魔術をかけてやる。「ありがとう」って答えた彼の笑顔がちょっと眩しくて、わたしは思わず視線を逸らした。
「では参ります。――!」
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
「いっけぇぇぇ!」
キャスターの魔術とわたしのガンドが、一斉にライダーを目がけて解き放たれた。セイバーにはキャスターの魔術ですら効かないから、うっかり外しても問題は無い――そのセイバーもこちらの意図に気づいたのか、ライダーを蹴り飛ばして彼女との距離を開く。
「投影、開始」
士郎の呟きと共に、その手にくねくね曲がった刃を持つ短剣が投影される。本来はキャスターの持ち物であり、彼女自身にかけられた呪いを解き放ったルールブレイカー。士郎はそれを右手に構え、ライダーの身体に突き立てようとする。……眼帯に隠されていない彼女の口元が、忌々しげに歪んだように見えた。
「無謀な!」
どすっ、と鈍い音がした。士郎の左の脇腹に、ライダーが繰り出したダガーの先端が深々と刺さっている。そこから、赤い血がぶわっと沸き出した。一瞬空いて、あいつは口からも同じ色を吐き出す。
「士郎!」
「シロウっ!」
キャスターとセイバーが、彼の名を叫ぶ。わたしはそれさえもできずに、ただぼうっと赤い色がコンクリートの床に模様を作っているのを見つめていた。
わたし、何してるんだろう。
何で見てるだけなんだろう。
動かなきゃ。
あいつを助けなきゃ。
何で、動けないの――?
「………………ルールブレイカー」
その声と共に、士郎とライダーが光に包まれた。
光は空間を浄化し、空気の赤を消し去っていく。その光は、長身を仰け反らせたライダーの身体から逃げ出すように滲み出てきた黒い影をも溶かす。首輪がばきんと音を立てて外れ、長過ぎる髪が下からの風を受けたかのように乱れる。その髪の中から、同じ色の猫耳がぴこん、と姿を見せた。ばさばさと暴れる髪をかき分けて、そのお尻からも同じ色の猫尻尾がひょこん。
「うう……あああ――――っ!」
彼女が一声吼えた。一瞬身体を縮込ませ、バネのように床を蹴ってひとっ飛び。給水塔の上で呆然としっぱなしの慎二目がけて――行ったぁ、鉄拳制裁!
「ぐわああっ! こ、この、覚えてろよ!!」
小悪党特有の捨てぜりふを吐き出して、慎二はぽーんと飛ばされていった。取り戻された青空の果てまで飛んで行って、消え去った後にキラリと光。まぁ、死にはしないだろうと……思う。うん、きっとあいつは平気。それよりも、士郎だ!
「士郎っ!」
お間抜けな慎二のおかげか、何とか動けるようになったわたしは、慌てて床に倒れ込んだ士郎の元へと駆け寄った。セイバーに身体をもたれかけ、キャスターが見守って……あれ、傷は?
「……遠坂……うん、大丈夫みたいだ」
少し苦しそうだったけど、士郎は無事だった。それに、ライダーに刺されたはずの脇腹の傷もほとんど塞がっている。これは、キャスターの魔術なの?
「いえ、わたしではありません。士郎の身体が、自ら修復したのです」
んなアホな。そんな便利な身体なんてあるわけが……って、目の前にいるのか。まったく、アンタ何者?
「…………」
そして、もう一人「何者?」な相手がわたしたちのそばに立った。先ほどの恐慌状態からは脱しており、ちょっと恥ずかしげにもじもじしてるのが可愛い。
「――あんたも、聖杯戦士だったんだ」
彼女……ライダーを見上げ、わたしはそう言った。ライダーは小さく頷いて跪く。
「聖杯戦士マジカルライダー、ここに参上いたしました。これまでの非礼、何と詫びたらよいか」
「良いわよ。少なくとも鮮血神殿とやらは解除されたみたいだし」
そう、そもそもはその厄介な結界を消すためにわたしたちは戦ってたんだ。えらく時間がかかったような気がしたんだけど、間に合ったかな?
「大丈夫です。基点近くにいた者の中には、表皮へのダメージが著しい者もいるかも知れませんが、この展開時間であれば生命に別条はないはずです」
「そっかぁ、なら、よかった」
わたしは一安心して、それから通信機を手に取った。さすがにこれだけ派手なことをやらかした訳だし、証拠隠滅を図ることにしよう。あいつに連絡取るの、あまり気が進まないんだけどな。
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