Shunkiのぼちぼち記

アクセスカウンタ

zoom RSS Fate/gold knight 18

<<   作成日時 : 2009/04/30 23:21   >>

面白い ブログ気持玉 7 / トラックバック 0 / コメント 3

 ごくり、と息を飲む。その音すら、俺の耳には届かない。
 周囲は雑踏に充ち満ちている。夕方の、ごく普通の商店街の、その一角。
 ごく当たり前の、平凡な日常の一コマ。そのはずだ。
「ふふ、どうしたの? 死神にでも会ったような顔をして」
 その日常の中にくっきりと浮かび上がるは、本来ここにはいないであろう白い少女。
 イリヤスフィールという名前を持つ少女は、無邪気に微笑んで。
「大丈夫よ。太陽が出てる間は殺さないから」
 夕方の雑踏の中に、くっきりと浮かび上がるように佇んでいた。

 ざり、と立てられた足音が俺を現実へと引き戻した。アスファルトと靴の裏が擦れて発生した、主の体重のせいで少し軽い音。
 はっと顔を上げたとき、俺の目の前には金色の豪奢な髪がふわりと広がっていた。
「下がっておれ、士郎」
「弓ねえ……」
 高いけれど耳触りのいい声が響く。背は低いけれど俺よりはずっと力強く、俺にとって傍にいてくれているだけで心強い、金の姉。彼女が、俺とイリヤスフィールの間に仁王立ちしている。俺を、彼女から守るように。
 背中から浮かび上がる微かな殺気に、俺は足を踏み出すことができなかった。例えそれが、少女に対して向けられているのだとしても……俺にそれが一瞬でも向けられたならば、多分俺は、耐えきれないだろうから。
「何用だ、小娘。偽りの平和に溺れる敵を嘲笑いにでも来たか?」
「まあ、そんなところ。それと死の宣告、かしら」
 俺に背を向けている姉の顔は、こちらからは伺えない。だけど、彼女が今どんな表情を浮かべているかは、はっきりと分かった。
 だって、イリヤスフィールが苦々しげに顔を歪めているから。
 多分、弓ねえは、いつものように自信満々な表情を浮かべ、白い少女を鼻で笑っているのだろう。
 あの夜にそうしたように。


  Fate/gold knight 18. しろいまぼろし


 二人が睨み合っていたのはどのくらいだっただろうか。一分もたっていないような気もするし、十分以上たっていたような気もする。けれどそのにらみ合いは、弓ねえが殺気を収めたことで終了した。
「ほほう、小娘ながら良い根性をしておる。もっとも、日が沈んだとて商店街の真ん中で刃傷沙汰を起こす気ではなかろうな?」
「ニンジョーザタ?」
 姉貴、いくら日本語が達者とはいえあのくらいの子が、あまりそういう言葉を知ってるわけないだろう。もう少し分かりやすく話してやれよ。
「ええと、よくわかんないけれど戦闘ならしないわよ。わたしたちの戦争は人知れず行われるものでしょ? それに、人を巻き込んだらわたしも気分はあまり良くないわ」
 あ、ニュアンスは感じ取ってくれたみたいだな。助かった。
 ならとりあえず、今ここで俺たちと彼女の戦闘が起きることはないわけだ。多分。姉貴とか、彼女の気配を察知したセイバーとか遠坂とかが飛びかかりでもしない限り。
「ふん、分かっておれば良い」
 姉貴は満足げに頷いて、金の髪を掻き上げた。一瞬鼻先をかすめた髪は何とも言えない良い香りがして、俺は一瞬目の前の光景を忘れた。ただ、その向こう側にかいま見えるイリヤの、こちらを鋭い槍のように貫いてくる視線に意識を引き戻される。
「……まあいずれにせよ、そなたに士郎の生命は取れぬ。我とセイバーがいる限り、な」
「よく言うわ。わたしのバーサーカーに手も足も出なかった癖に」
「は、二度はない。案ずるな、次は楽しませてくれようぞ」
「期待しないで待ってるわ」
 うう、周囲の人々はなんでこの殺気充満空間に気づかないんだろう? 二人の視線が空中で火花散らしてるよ。それとも、俺が敏感すぎるとかいうことかな……いや、それはないだろう。桜や二人の姉に鈍感だって良く言われてるからな。桜はともかく弓ねえや、ましてや藤ねえには言われたくないんだけどな。
 そんなことをぼんやりと考えていた俺の視界の中に、くるりと華麗に一回転するイリヤスフィールの姿が映った。それはまるで氷上を華麗に滑るフィギュアスケートの選手みたいで、刹那だけ緊張感が解けたような気がした。
「ほんとはね、シロウの顔を見に来ただけなの。戦いに来るとき以外はずっとお城にいるから退屈しちゃって」
 そうして、ぴたりとポーズを決めて止まった少女は、そんなことを言った。ぴくり、と姉貴の肩が震えるのが分かる。
「城?」
 ここは日本、冬木市。特に城下町というわけではなく、城跡といったものも存在しない、普通の街。
 だが、その単語には俺も、姉貴も、心当たりがあった。
「……外れの森にあるっていう城か?」
 外れの森の城。
 冬木市では、よく知られた言い伝えだ。都市伝説とでもいう類の噂、だろうか。
 市の外れにあるうっそうとした森の中に、城が存在するという。
 日本にあるには似つかわしくない石造りの、洋風の城だ。そういう姿をしているのだと、噂にはある。
 けれどその城にはなかなか近づくことができない。周囲の森に人を迷わせる魔法が掛かっており、たいていの者は森の中に入っていくつもりでいつの間にか外に追い出されるのだと。
 ごくまれに城にまでたどり着いた者も……存在するのだろうが、彼らが何を見たかは明かされていない。もしかしたら、魔法で記憶を奪われているのかも……という、噂だ。
 その噂が、事実だとするならば。
「噂は……真であったか」
 何となく、納得はできた。聖杯戦争の基地として存在する城ならば、一般の人間が接近しないように魔術を掛けていてもおかしくないものな。うちみたいな例外はともかくとして。
「ええ、そうよ。我がアインツベルンの城、来られるものなら来てみるといいわ」
「は、大方結界の二つ三つも張りつけた上その中でこわいようバーサーカー、などとみっともなくがたがた震えておるのであろうが。ええ、己では何一つ出来ぬ小娘が」
 ふふんと自慢げに小さな胸を張るイリヤスフィール。にいと悪戯っぽく細められたその紅い目は、弓ねえの鼻で笑う声にさっと見開かれた。いやー金の姉上、他人を怒らせる言動取らせたら世界一じゃなかろうか。
「なんですって……?」
 あー、口の端がぴくぴく震えてるぞ。姉上、向こうが戦闘しないって言ってるんだから挑発するのやめてくれないかな。ここで魔術戦とかやるわけにもいかないだろうが。ほんと勘弁してくれ、怖いけれど割り込みを掛けよう。
「ちょ、二人ともやめろって。こんなところで戦うわけにいかないんだろうが」
「む」
「むー」
 あのな、何で俺が睨まれなきゃならんのだ。俺は至極当然なことをしたまでだぞ。
 というか、両側から赤い瞳で睨み付けられるのは結構怖いな。二人とも、目の色だけは同じなんだから。ともかく、俺は間違ったことを言ってるわけじゃないんだから、そんな睨まれても引かないぞ?
「──まあ、士郎の言うとおりであるの。かような所で問題を起こすわけにもいくまい」
「それもそうね。シロウの言うとおり、ここは引いてあげる」
 もう少し時間かかるかな、と思ったけれど、二人はあっさりと引いてくれた。
 正直、これ以上事態が長引いたら俺では収拾がつかなくなる。だけどこの状況で遠坂やセイバーやアーチャーをここに呼んだらそれこそ大事になるからな……いや、本当に良かった。
「ありがとう。ええと、イリヤスフィールだっけ」
 名乗られた名前で呼ぶと、彼女はほんわりと微笑んだ。それこそ、生命を奪い合う敵である相手に見せるとは思えない、無邪気な少女の笑顔。
「うんっ」
 何がそんなに嬉しいのか、にこにこ笑いながら彼女は俺をじっと見つめた。さっきまでのような剣呑な視線ではなく、本当に仲の良い友人に向ける視線だ。……いや、きょうだいに、かな?
「長い名前だから、お兄ちゃんはイリヤって呼んでくれていいわ。ユミは駄目」
 イリヤスフィール……いや、今許可を得たわけだからイリヤと呼ぼう。彼女の俺に向ける顔と弓ねえに向ける顔のまあ違うこと。女の子ってそこまで表情を変化させることができるのか。
「露骨に差別しとるのう……まあ良い」
 姉上もそのことに気づいているようで、小さく溜息をついて軽く頭を振った。さら、と流れる金髪が、夕日に溶け込むように赤く染まる。ああ、もう日は地平線の下に消えていこうとしている。
「そら、冬は日の沈みが早い。護り手のおらぬ小娘はとっとと城に戻れ」
 くすりと肩を揺らし、弓ねえはしっしっと犬でも追い払うかのように右手を振る。一瞬イリヤはまたむっとしたけれど、すぐにその表情は意地悪な笑みへと変わった。
「……やっぱばれてたか。そうね、帰るわ」
「当たり前だ。疾く去ね」
 不機嫌をあからさまに口調に出す姉貴の声ににいと唇を歪め、白い少女はふわりと身を翻した。そのまま振り返ることもせず歩み去っていく彼女の背中を見送りながら……俺は、姉上の言葉の一部を切り取って疑問形にした。
「護り手が、いない?」
「ふむ。そうか、士郎は気づかずとも無理はない。……あの小娘、サーヴァントを連れておらなんだ」
 振り返り、俺の顔を見上げながら姉貴は俺の疑問に答えてくれた。サーヴァントは霊体化し、人の目に見えなくなることができる。例外としては受肉している弓ねえと、自身の事情で霊体化できないセイバーが挙げられる。
 だがイリヤは、普段ならばあのバーサーカーを霊体化させて連れ歩いていてもおかしくはない。
「我とてサーヴァント。姿を消してはいても、あの狂戦士の気配ならば把握できる。だが、今の小娘はその気配を連れておらなんだ」
 確かに。
 姉貴は霊体化していたアーチャーの気配を察知することができた。アーチャーはその性質上、気配を消すことに長けているはず……そういう奴の気配すら感じ取れるのならば、バーサーカーの異様な存在感はかなり分かりやすいだろう。
 それがなかった。イリヤも姉貴の感覚を肯定していた。
 要するに。
「じゃあ、一人で来たんだ」
「そうなるの」
 肩をすくめる弓ねえに、俺も苦笑を禁じ得ない。聖杯戦争だマスターだということをさておいても、子どもが1人で自分の家、というか城から遠く離れたこの地までわざわざ遊びに来るなんて大変だろうな。
「……って、外れの森からここまでか? かなり距離あるぞ」
 と、そう言えばそうだったよな、と思い出した。冬木市におけるイリヤの本拠地は外れの森にあるはずの城。子どもが徒歩で来るにはいくら何でも遠すぎる。
「む……それもそうだの。金があるようだが、まさかあのちびすけがタクシーでもあるまいに」
「専属運転手とかかな、やっぱり」
「そのあたりが妥当なところか」
 むう、と姉貴と二人頭を突き合わせて出た結論がそれ。第一、タクシーなんて足のつきそうなものを彼女がむやみに使うとも思えない。それに、どうも家が裕福みたいだから、ほぼ確実に専用車とか持ってるだろうしな。
「……ある意味羨ましいなあ」
 小さく溜息をついたら、姉貴が苦笑しながら俺の顔を覗き込んできた。いや、その悪戯っ子のような目は何ですか、姉上。
「士郎が社会人になったら考えてもよいが。藤村に言うて防弾仕様の車を準備させるぞえ?」
「いや、大げさな。それに、自分で動く方が多分性に合う」
「であろうな」
 と言うかだな、姉貴。
 藤村組で用意して貰ったら、確実にヤのつく自由業御用達の黒塗りな高級車&黒服グラサンの専用運転手、とかになりそうでとっても怖いんだよ!

 少し冷めてしまったタイヤキを胸元に抱え、俺と弓ねえは急いでみんなのところに駆け戻った。まあものの見事に全員青筋が立っている。中でもセイバーは隅っこで体育座り中。あのなあ、そんなに腹減ってたのか? 昼飯の量、また考えないといけないかな。
「ちょっとぉ、遅いじゃないのー。何やってたのよ、衛宮くんも弓美さんも」
 肩をすくめて遠坂が睨み付けてくる。しかし、そんなに遅かったか? 俺たち。
「そんなに時間経ってたか?」
「経ってますね。買いに出てから三十分ほどになりますか」
 むすっとふて腐れているセイバーが、大変に恨みがましい口調でおっしゃる。言われて慌てて腕時計を見たら、確かにその通りの時間が経っていた。
「え、あれ、ほんとだ」
「むう……さほど寄り道をしておったわけでもないのだがな」
 姉上も時計を覗き込み、綺麗な形の眉をひそめながら首を捻った。そんなに時間が掛かるようなことは俺も姉貴もしていないはずだ。
 何だか、いきなりそれだけの時間を切り取られたような、奇妙な空白。
「だよなあ。……ごめん、遅くなって」
「確かにの。待たせて悪かった」
 それでも、実際に遅くなったわけだから素直に頭を下げて謝る。姉貴も幾分顔を俯けて、彼女には珍しく謝罪の言葉を口にした。うん、明日は鎖でも降って来そうだ。いやそうじゃなくて。
「まったく、気をつけてくれんと困る。誰かと会っていたのか?」
 いつの間にやら保護者的立場に立っているアーチャーが、腕を組んで俺と弓ねえを交互に見る。少し記憶をさらってはみたものの、特にピックアップすべき相手と会話した記憶はない。当然だよな、誰とも会ってないんだから。
「え? いや、別に誰とも」
「そうだな。誰かと会えば覚えておろ」
 姉貴もそれは同様で、だから俺たちは顔を見合わせて頷き合う。アーチャーの眉が微かにひそめられたような気がしたけど、気のせいかな。
「──そうか」
 ふむ、と口元に手を当てて考える仕草をしながら、アーチャーはそれ以上何を聞くつもりもなさそうだ。まあ、根掘り葉掘り聞かれたところで俺も弓ねえもそれ以上の返答が出来るわけもないのだけど。
「そ、それよりシロウ、ユミ、その、タイヤキを……」
 か細い声が耳に入ってきたので、慌ててそちらに視線を移す。声の主は俺の手元にある袋を睨み付けて、今にもよだれをだらだらと垂れ流さんばかりのセイバーだった。
 なあセイバー。お前、ほんとに過去の英雄か? 英雄は英雄でも、犬とかそっちの方じゃないよな?
「ああごめんごめん。そんなに腹空かせてたのかセイバー」
 何だか、本当に犬の耳と尻尾が見えるみたいだ。しかも両方ともしゅん、と凹んでぺたんと垂れ下がっているんだな。そんなセイバーを見てくすくすと笑いながら、遠坂が口を挟んできた。
「そうなのよねー。もう衛宮くんたち待ってる間ずーっとお腹の虫がぐーぐーと」
「し、失礼な! 一回だけです!」
「鳴いたのは事実、ということかえ?」
「あ゛」
 姉貴姉貴、そこで突っ込んでやるな。武士の情けと言うだろうが。それに、よく聞くと今もこっそり虫が合唱してるぞ。セイバーがうまく声でごまかしてるから聞き取りにくいけど。
 でもまあ、ほんとにセイバーがお腹を空かせてるってのはよく分かった。これはさすがにこっちが折れないと、後が怖そうだなと思って俺は、手に持ったタイヤキの袋を差し出した。
「まあ、待たせちゃったのは悪かった。はいセイバー、これ一袋全部やるから」
「あああありがとうございますシロウ、これで今日も夕食を心穏やかに待つことができます」
 ぱたぱたぱた。セイバーに尻尾が生えていれば、確実に激しく振られていただろうな。そのくらい、タイヤキ一袋を手にしたセイバーは目に見えて機嫌が直っている。……タイヤキで買収される英雄? いやだな、何か夢も希望も消えて失せる。
「そこまで言うかね、君は」
 早速タイヤキを袋から取り出してパクつき始めたセイバーと、それを見て肩をすくめるアーチャーたち。俺も苦笑しながら彼女を見ていたんだけど、ふと気になって金の姉に視線を移す。と、弓ねえと目が合った。
 きっと、考えていることは二人とも同じだろう。

 ──俺は。

 ──我は。

 今日、誰かに、会ったのか?

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 7
面白い 面白い 面白い 面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
コメ1番乗りですかねぇ。
首を長くして待って居りましたが、まずはご無事で何よりです。
今回は我様の設定を利用した日常パートでしょうか、意表を突かれました。
そしてイリヤ、流石に3人目の姉にはなりませんでしたか(苦笑
今後とも楽しみにさせて頂きます、では。
Lostlifer
2009/05/01 23:22
ほのぼのとした幕間かと思いきや、思わせぶりな最後が気になりますね。
慎ニとの決着を待たずに舞台が大きく動くのでしょうか。

そろそろ脱落するサーヴァントも出そうなのかな。
続きを楽しみにさせていただきます。
風まかせ
2009/05/26 23:55
すっかり遅くなってしまい申し訳ありません。
これから執筆スピードを上げて行きたいと思います。
一括レスにて失礼します。

気持玉クリックしてくださった方もありがとうございます。
Shunki
2009/09/14 22:11

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
Fate/gold knight 18 Shunkiのぼちぼち記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる